Mantleのコミュニティヘッドが語る、コミュニティ運営のノウハウ
モジュール型のEthereumL2チェーンをはじめ、mETH ProtocolやFunction BTCなど複数のネイティブプロダクトを提供する、次世代金融インフラ「Mantle（マントル）」。そんなMantleエコシステムの主要なプロダクトのコミュニティを支えるのが、Head of Communitiesを務めるLBrian氏だ。今回LBrian氏に、Mantleコミュニティの強み、コミュニティの熱量の保ち方、Web3のマスアダプションへ向けてコミュニティが果たす役割、日本の市場とコミュニティの印象、匿名でいかに信頼と共感を築くのか、などについて訊いた。
【インタビュー】LBrian（The Head of Communities at Mantle）
−−クリプトに関わるまでのキャリアやバックボーンを教えてください。
クリプト業界に入る前は、商業写真および映像業界でフリーランスとして活動していました。クリプトと関係のない仕事でしたが、さまざまな業界のスタートアップや大手企業と関わり、新製品のローンチ初期段階にも携わる機会を得られました。振り返ると、これらの経験を通じて、プロダクトを市場に適切に投入する方法や、分散型のチームで働く方法について学べたと思っています。
−−Mantleのコミュニティマネージャーになった経緯を教えてください。
Mantle Networkの前身は、BitDAOというDAOです。私たちのDAOの主なコミュニティ機能はガバナンスでした。BitDAOは、新しい革新的なWeb3プロジェクトや企業に対してトークンでガナバンスされたトレジャリーを通じて支援を行っていました。私は約3年前から独立したコントリビューターとしてBitDAOに参加し、ガバナンスディスカッション、投票、新しいプログラムやキャンペーン、イベントの企画・実施などに関わってきました。
その後、BitDAOはMantle Networkへとリブランディングし、Ethereum上のレイヤー2を構築します。それ以来、Mantleは、以下の6つの主要領域にわたってWeb3プロダクトを構築しています。
・Mantle Network：Eigen DAをデータ可用性に活用し、DeFiでより大きな流動性と効率性を実現するよう設計されたモジュラー型Ethereumレイヤー2。Succinct LabsのOP Succinctを基盤とした世界最大の*ZKバリディウムロールアップとして間もなくリリース予定です。
*ZKバリディウムロールアップ：ゼロ知識証明（ZK）を使って取引の正当性を保証しながら、取引データ自体はオフチェーンで管理する技術。処理速度や手数料の面で優れ、セキュリティと効率性を両立できる次世代のスケーリング手法のこと。
・mETH Protocol：世界第4位の流動性ステーキングプロトコル。
・Function（$FBTC）：TVL10億ドル超のオムニチェーン対応BTC資産。DeFiにおけるビットコインの採用拡大に寄与します。
・Mantle Index 4：Securitizeと提携したトークン化ファンド。Mantleのトレジャリーから4億ドルのアンカー投資を受けており、機関投資家をターゲットにした、いわば暗号資産版S&P500です。
・Mantle Banking：法定通貨と暗号資産の統合管理を可能にするクリプトネオバンク。伝統的金融とDeFiのシームレスなインターフェースを提供します。
・Mantle X：AI技術を活用してMantleエコシステム内の多様な業務やプロジェクトを支援・最適化する部門。Mantleの中核領域（トレジャリー管理、コミュニティ運営、オンチェーンリサーチ、DeFiなど）に特化した高度なAIエージェントの設計・展開・運用を担っています。
−−これまでMantleエコシステム内の複数のコミュニティに関わってきたLBrianさんが、コミュニティ立ち上げの際に大切にしているポイントを教えてください。
コミュニティの立ち上げのフェイズは、次の2つの理由から、最もエキサイティングな段階の一つです。
1つ目に、成功する新しい製品やオンチェーン体験の初期段階では、ユーザーやビルダーの関与が特に高まる傾向にあります。2つ目の理由は、初期ユーザーが最も忠実なサポーターになることがよくあるからです。
まずはターゲットとなるユーザーとコントリビューターのニーズや課題を明確に把握することが重要です。コミュニティメンバーを明確に定義できれば、その人たちの固有の課題解決やニーズの充足に向けて、より的を絞った取り組みが可能になります。これらの取り組みは、プロジェクト開始直後から特に重要です。
たとえば、技術的なサポートやユーザー支援、コンテンツ制作のためのリソース提供、活動への参加を促すインセンティブ設計など、貢献しやすい道筋を整えることが挙げられます。
もう一つ重要なのは、インセンティブの設計です。トークン報酬など金銭的インセンティブに依存しすぎると、短期的な利得を目的とした、いわゆる「傭兵的」なユーザーを惹きつけてしまうリスクがあります。だからこそ、承認や限定アクセス、フィードバックの反映、象徴的なステータスといった非金銭的な報酬も重視すべきです。
ユーザーのニーズと課題を深く理解できていればいるほど、それに応じたインセンティブやプログラムの設計がしやすくなります。
−−現在LBrianさんがマネージメントしている複数のコミュニティについての概要やそれぞれの特徴を教えてください。
Mantle Network L2コミュニティは、ゲーム、ソーシャルアプリ、DeFiプロトコル、アート、NFT、インフラ系プロダクトなど、幅広いdAppエコシステムを横断する、最も多様性に富んだコミュニティです。その中核を担っているのが開発者たちであり、彼らはネットワーク、コミュニティ、ユーザーベースの成長を牽引する独自のプロダクトや体験を構築しています。
前述の通り、私たちはMantle Network、Mantle Index 4、mETH Protocolをはじめとする6つの主要なイノベーション領域を展開しています。それぞれのプロダクトには個別のコミュニティセグメントがあり、私たちはそれぞれに最適化された価値あるプロダクトと体験の提供に努めています。
Mantleのコミュニティの中心を成すのは、Ethereumの流動性ステーキング、Ethereum DeFiのユースケース、BTCfiプロトコル、そして伝統的な金融領域にもまたがるDeFiユーザー層です。
−−Mantleエコシステムのコミュニティが他のクリプトプロジェクトと比べて強い点は？
コミュニティをシンプルに分類する方法として、トークン発行前と発行後（TGE以降）の2つに分ける考え方があります。Mantleはすでに「MNT」トークンを発行しているため、多くの初期段階のクリプトプロジェクトと比べて、より成熟したフェーズにあるといえるでしょう。
私たちは、確立されたエコシステムと活発なトークンホルダーコミュニティを有しており、Ethereumエコシステムにおける信頼性の高いコントリビューターとしての評判を背景に、強固なパートナーシップを築いています。
クリプトの世界において、「信頼」は過小評価すべきでない要素です。Mantleではこの数年間、コミュニティとの密接な連携を通じてフィードバックを収集し、それを基に市場に提供するプロダクト体験の向上に取り組んできました。
Mantleエコシステムの大きな強みの一つは、金融、AI、インフラ、ステーキングなど、幅広いユースケースに対応したプロダクト開発を行っている点です。
これらのすべては「MNT」トークンによって支えられ、管理されています。これにより、「MNT」保有者は、保有資産約30億ドルを誇るMantleトレジャリーを活用して、エコシステム全体の戦略的な成長と発展を主導できる立場にあります。
私たちのチームは、DeFi、伝統金融、ベンチャーキャピタルの分野で豊富な経験を持ち、TVL（総ロック資産）が数十億ドル規模のWeb3プロダクトを市場に送り出してきました。その結果、Mantleはビルダーにとって、最も刺激的で支援に満ちたエコシステムの一つになっています。
−−コミュニティマネージャーとは、どのようなお仕事でしょうか？ 日々の具体的な業務を教えてください。
コミュニティマネージャーは日々、エコシステム内のユーザーやビルダーと直接やり取りしながら、フィードバックの収集、関係構築、イベントの開催、教育の提供、そして成長とエンゲージメントを促す魅力的なストーリーを創り、それを発信しています。 私たちの主な目標は、コミュニティメンバーの課題を理解し、それを解決することです。
−−コミュニティマネージャーとして、最も難しい点はどこですか？また、やりがいを感じる部分があれば教えてください。
コミュニティマネージャーの仕事は非常にダイナミックで、課題は日々変化しますが、コミュニティ構築において最もチャレンジングで、同時にやりがいのある点は、市場の変動にどう対応するかという部分です。
相場が下落したとき、参加率は低下しがちですが、そんな時こそ、本当にコミットしてくれているメンバーや忠実な支持者が誰なのかがはっきりと見えてきます。
一方で、最もやりがいを感じる瞬間は、コミュニティの成長を支え、新しいユーザーやコントリビューターを迎え入れ、教育し続けてくれる中核的なメンバーたちと信頼関係を築き、その貢献に報いることができたときです。
コミュニティマネージャーの仕事のやりがいは、熱意を持ち、時間やスキルを惜しみなくシェアしてくれる人々と共に働けることですね。
−−コミュニティの熱量を長く持続するためのコツを教えてください。
私がコミュニティ運営において最も重視しているのは、多くの実験を重ね、メンバーが抱える喫緊の課題を解決し、彼らの最も強い願望を満たすことです。
コミュニティとは、まるで庭のような存在です。常に手入れが必要で、やるべきことが絶えずあり、試してみるべきことも常にあります。そして何より、絶えず変化していきます。なぜなら、コミュニティは複雑なニーズと行動を持つ人々によって構成されているからです。これは静的なものではありません。
大切なのは、メンバーの声に耳を傾け、そのニーズに柔軟に応えていくことです。
メンバーのニーズは、必ずしもあなたのプロジェクトや製品、コミュニティの「内側」にあるとは限りません。プロジェクトチームやコミュニティマネージャにコントロールできないものもありますが、どう反応するかはコントロールできます。
コミュニティを注意深く観察し、フィードバックをしっかり受け止め、それに応じた報酬を与えることで、関係性を築き、学び合い、スキルを共有できるダイナミックな空間が生まれていきます。
コミュニティに関する最も印象的なアドバイスの一つを、私は友人のVeerから貰いました。彼は、「常に少しだけ未完成な部分を残しておくことで、コミュニティが関われる余白が生まれるんだ」と教えてくれました。
熱量を長く保つために、コミュニティのメンバーに責任感を委ねる機会を、ぜひ探してみてください。
−−コミュニティが成熟するにつれ、古参と新規メンバーの間で階層が形成されることがあります。そのような階層が引き起こす分断に対処する方法はどのようなものが考えられますか？
初期メンバーと新規メンバーが、分断を生んだり、上下関係をつくったりする必要はありませんね。
私は初期メンバーを、他のコミュニティメンバーと協力しながら支え合う、支援者・貢献者・仲間として見ています。初期メンバーが知識を共有し、新しいメンバーを迎え入れ、ガイド役としてサポートできるようにすれば、新しいメンバーもすぐに居場所を見つけ、自然と初期メンバーと同じ価値観のもとで貢献を始めるようになります。
コミュニティリーダーに求められるのは、自分たちが大切にしたい価値観を行動で示し、それを新たなリーダーたちに引き継いでいくこと。そして、新たなリーダーがそれぞれの視点と経験を活かして、その価値観を実践できるように後押しすることも重要です。
また、トークンエコノミーを土台としたコミュニティにおいては、初期のトークン保有者が経済的に強い影響力を持つ場合、慎重な対応が求められます。もし彼らが新たな参加者よりも有利な条件を持っているなら、透明性の確保と長期的な価値を生み出すための確かな姿勢が不可欠です。
−−日本のクリプトと市場や、日本のコミュニティについてどのような印象を持っていますか？
日本には、スタートアップの創業者、研究者、学生、トレーダー、オンチェーンユーザーなど、多様で独自性のある強固なクリプトコミュニティが存在しています。
Mantleにおいても、日本のコミュニティは最も急成長を遂げ、最も活発な存在の一つです。
私たちはこれまで、エキサイティングなゲームの起業家や、教育と普及に尽力する「Kudasai」のようなコミュニティの活躍を目の当たりにしてきました。
日本には数百万人規模のアクティブなクリプトトレーダーやユーザーが存在しています。この日本市場が、グローバルな市場とともにどのように成長・進化していくのか、私たちは大きな期待を寄せています。
−−LBrianさんは匿名で活動されています。匿名で活動すること、またコミュニティをリードすることの難しさはありますか？ 匿名で活動することに際して意識していることがあれば教えてください。
匿名で活動するうえで、信頼を築くことが大きな課題になるのは確かです。人はプロフィール画像ではなく、人そのものとつながる傾向がありますからね。
とはいえ、私自身は時間をかけて、匿名性に対するスタンスを少しずつ柔軟にしてきました。
多くのチームメンバーやコラボレーターとは実際に会っており、カメラ越しに顔を合わせる機会も定期的にあります。また、コミュニティのメンバーとは深いつながりを築き、個人的なエピソードも多く共有しています。
私が守っている主なポリシーは、「公共の場ではカメラに顔を出さないこと」です。これは主に、個人のセキュリティを守るためです。
−−オンチェーンでの匿名や仮名性が前提となる中で、信頼できるコントリビューターをどう見極め、どう育てていますか？
Web3における匿名性は、表面的なものにとどまっていることが多いと感じています。
多くの人は、何かしら性格やアイデンティティの一部を、常に何らかのかたちで共有しているものです。そして、どんな情報を共有するかによって、その人がオンライン上でどれだけ信頼を築けるかが決まってきます。
大規模なキャンペーンでは、シビル攻撃や悪意あるユーザーを特定するために複数のツールを使っていますが、日常の運営では、チームが個々のメンバーやグループと直接関わり合いながら、より強い信頼関係を築くことを大切にしています。
匿名性の大きな利点のひとつは、自分自身をどう見せるかを柔軟にコントロールできることです。プロフィール画像、ビデオチャットツール、SNS上でのやり取りのスタイルを変えることで、認識されやすい「声」や「キャラクター」を作り出すことができます。
人々がこれらのツールを通じてどのように自己表現しているかを注意深く観察すれば、その人について多くを知ることができるはずです。
とはいえ、やはり、対面で会うことに勝るものはないのも事実ですね。
−−Web3のマスアダプションに向けて、コミュニティが果たすべき役割は何だとお考えですか？
コミュニティは、クリプトのような初期段階のテクノロジー産業において、アダプション（普及）を促進するうえで不可欠な存在です。なぜなら、新たに参加するメンバーが貢献し、学んでいくための明確な導線を提供する役割を果たしているからです。
また、プロダクトマーケットフィット（Product-Market Fit）を模索する起業家にとっても、コミュニティは非常に重要です。開発の初期段階において、コミュニティは最も重要なフィードバックチャネルとなり、製品開発やマーケティング資料、さらには全体戦略における優先順位づけを、チームが判断するための手がかりを与えてくれます。
さらに、コミュニティは最も強力なマーケティング手段の一つになり得ます。これはWeb2や従来型のビジネスにおいても同様で、多くの企業が、製品のレビューや利用体験を発信してくれる支持者の存在に支えられています。本物のユーザーからの率直なレビューに勝る説得力はありません。支持者の基盤を築き強化することは、新たなユーザーの獲得を後押しする大きな原動力となるのです。
−−今後の活動予定について教えてください。
まず今回は貴重な機会をいただきありがとうございました。非常に興味深いインタビューでした。
Mantleでは、今年後半に「Mantle Banking」のリリースを予定しています。最新情報は、Xの「@mantle_official」をぜひフォローしてください。
製品ローンチに先立ち、早期かつ活発なコミュニティメンバーの皆さんを対象に、限定ベータテストを実施します。いただいたフィードバックをもとに、さらなる改善を重ねていきます。
「Mantle Banking」のローンチは、今年最大級の発表のひとつとなる予定であり、コミュニティがオンチェーン金融の未来を体験するエキサイティングな瞬間になるでしょう。
また、Mantle Networkでは現在、あらゆる資産のトークン化を可能にするプラットフォームエコシステムの拡大が続いています。DeFiユーザー向けには、ツールのさらなる充実が進められており、その一環としてAave V3の導入や、新たなDeFiユースケースを生み出す革新的なDeFiハブ「Funny Money」のリリースが予定されています。
さらに、mETH Protocolは、$mETHおよび$cmETHをより多くのL1およびL 2エコシステムに展開することで、エコシステムの拡大を継続しています。利回りの最大化を目指すユーザーは、「Methamorphosisキャンペーン」に参加することで、Mantle Networkや他チェーン上で$cmETHを活用し、追加トークン報酬を獲得できます。
最後に、MantleXは現在、「高品質なデータの確保」、「優秀な人材のリクルート」、「流動性と利回りを最適化するツールの開発」の3点に重点的に取り組んでいます。
Mantleのチーフ・アルケミスト Jordi Alexander（@gametheorizing） および消費者＆AIリード Sean Lee（@ricematcha）をフォローして、最新情報に是非ご注目ください。
インタビューイ・プロフィール
L.Brian
The Head of Communities at Mantle
L.Brianは、オンチェーン・ファイナンスの進化を牽引するMantleにて、コミュニティ責任者を務める。Mantleは、基盤インフラからトークン化金融資産に至るまで6つの領域にまたがって構築を進めており、モジュール型イーサリアムL2「Mantle Network」（TVL約10億ドル超）や、世界第4位規模のETH流動性ステーキングプロトコル「mETH Protocol」を中心にエコシステムを拡大中だ。L.BrianはWeb3黎明期よりBitDAOにおけるDAOコントリビューターとして活動を開始し、その後正式にコミュニティマネージャーとしてコアチームに参画。この3年間で、mETH、Function（FBTC）、Mantle Networkといった主要プロジェクトのコミュニティ立ち上げと拡大を主導し、DeFi・Ethereum・Bitcoinの各エコシステムにおけるユーザーエンゲージメントと成長に大きく貢献している。
Xアカウント：https://x.com/dao_lbrian
Discord handle：lbrian
関連リンク
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インタビュー/編集：設楽悠介（あたらしい経済）
翻訳/編集：髙橋知里（あたらしい経済）